三秋縋の「恋する寄生虫」を読んだ。
感想書いてないけど、この作者の本は「いたいのいたいの、とんでゆけ」に続き2作目。
簡潔に面白かったか面白くなかったかで言えば面白かった。
多少のご都合主義的な部分はあったが、個人的にそこまで気になるほどではなかったし、話の方向性は完結まで一貫性があり表現のきれいさの方が目立っていた。
ラノベ寄りともいえるが、表現の秀逸さという点はプロを感じた。
次に、内容に焦点を当ててこの本を一言で表すなら「終生交尾」だろう。
最初出てくるフタゴムシの話。
これがこの本の核であり、佐薙と高坂の関係そのものだと思う。
フタゴムシの終生交尾という性質を肯定も否定もせず、きれいな形で二人の人間に落とし込む。
そしてきれいな形のまま終わりを迎える。
「いたいのいたいの、とんでゆけ」でもそうだったが、この作者の終わりの美しさとか終わることに対するネガティブな感情を尊くポジティブに表現してるのが好き。
高坂が思い悩む場面で、自分は寄生虫によって恋をしているわけだから糸が目に見えないだけで操り人形と変わらない。
そこに失望する高坂がいて治療を受けることを決心する描写がある。
結果的に治療を受けないことを選択をした佐薙が最後には死を迎えないという意味で正しい選択といえるが、「自分の気持ちではなく恋をしてた」と知って治療を受ける選択をした高倉の誠実性の高さはうかがえる。
ただ、「最終的に自殺を迎える背景があった」から治療の選択したとも取れるので、もしあの時点で寄生虫の生態が分かっていていたのなら間違いなく治療をしないという選択をしただろうなと思えてその部分はやるせない。
最後の終わり方に関しては想像の余地が多分に含まれて、佐薙としては間違いなくハッピーエンドだろうけど、高坂はおそらく佐薙が自殺した後につらい気持ちを持ちながら後を絶つのだろうとは思う。
だってそれが終生交尾だから。
しかし、虫がいなければ二人ともとっくに命を絶っていたはずであるし、このような一瞬の煌めきさえなくして死を迎えていただろうから、佐薙のいうように最善とは言えずとも最悪とは言えないだろうと思う。
作者のあとがきからもうかがえるように、「人の価値基準は場当たり的なもので人間の価値観の倒錯はもっとも美しいバグ」この言葉に集約されると思う。
絶対的な価値観がすべて正しいわけでなく、「引き算の幸せ」おそらく「相対的な差分」そんな価値観がその人にとって一番の思い出でいい。
佐薙も高坂もそれぞれにとって一瞬の煌めきを持ったまま死ねたのは多分幸運なことなことでハッピーエンドと言ってもいいと思う。